大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1643号 判決

控訴代理人は「原判決を取り消す。長野県採掘権登録第一〇〇号なる硫黄鉱採掘権の抹消登録について瀬森利助が昭和二十六年六月二十九日にした異議申立に対し被控訴人が同年七月十三日に与えた却下決定はこれを取り消す。東京通商産業局長が昭和二十五年一月十日にした右採掘権の抹消登録処分はこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、被控訴代理人において、「鉱業法及び鉱業登録令は昭和二十五年改正され、新法令は昭和二十六年一月三十一日に施行されたのであるが、但法令による登録処分について旧法令時に既に異議申立期間を経過した場合には、新法令において特にかような場合に更に異議申立を許す趣旨の規定はないのであるから、新法令施行後に更に異議申立は許さるべきではない。そして旧法令時における登録処分についての異議申立期間は登録の日から進行するものと解すべきである。従つて本件についてこれをみると、本件登録処分は昭和二十五年一月十日になされたのであるから、旧鉱業登録令第七十条によつて、これに対する異議申立期間は、登録処分を終つた同日から起算して三十日を経過した同年二月九日を以つて満了したものである。しかるに、控訴人の亡父瀬森理助が異議申立をしたのは、新鉱業法施行後である昭和二十六年六月二十九日であるから、その異議申立は期間を徒過した不適法なものである。かりに、旧法令における異議申立期間が、登録の日からではなく、登録権利者に対する登録済通知のあつた日から進行するものと解すべきものとしても、瀬森理助は昭和二十五年一月二十日までには登録済通知書の交付をうけているのであるから、やはり申立期間を徒過したものであつて、この点から考えても、本件異議申立は不適法なものである」と述べ、控訴代理人において「被控訴人は、登録に関する異議申立は登録の日から起算して三十日内になすべきものであると主張するけれども、登録行為なるものは所管官庁の内部行為に過ぎないのであつて、登録権利者としてはその旨の通知がなければ、登録処分の有無はこれを知る由もなく、またその当、不当の判断もできないわけである。従つて、旧鉱業登録令施行細則第三十二条に定めた登録権利者に対する登録済通知書の交付がなければ、旧鉱業登録令第七十条所定の三十日の異議申立期間は進行しないものと解すべきである。

そして、旧法令による登録通知書が新法施行後に交付されたときは、新登録令附則第八項により、新法令に則つてなされたものとして、新鉱業法第百七十一条により右の通知書の交付を受けてから三十日以内に異議の申立ができるのであつて、瀬森理助は昭和二十六年六月四日附東京通商産業局長から抹消登録済通知書の交付を受けたので、同月二十五日異議の申立をしたのであるから、その異議申立は適法である。

また、本件登録済通知書は被通知人の表示を誤つたものであるから、右通知は錯誤により無効であつて、かような無効の通知を基礎にして異議申立期間を算定するのは失当である。」と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、すべて、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

三、理  由

一、控訴人の亡父瀬森理助が明治二十九年三月六日以来、長野県採掘権登録第一〇〇号なる長野県北安曇郡北小谷村字湯原の硫黄鉱区採掘権をもつていたこと、右瀬森理助が昭和二十四年十一月二十日附で関東信越地方商工局長宛に右採掘権の抹消登録を申請し、これに基いて、東京通商産業局長が昭和二十五年一月十日本件採掘権の抹消登録をしたこと、瀬森理助が昭和二十六年六月二十九日被控訴人に対し、右採掘権抹消登録処分について異議の申立をしたところ、被控訴人は同年七月十三日法定期間を徒過した不適法な異議申立であるとの理由でこれを却下、その却下決定書が同年七月十八、九日頃瀬森理助に送付されたことは当事者間に争いがない。

二、よつてまず右異議申立が法定の期間内になされたものであるかどうかについて考える。

(一)  被控訴人は「旧鉱業法における、登録処分についての異議申立の期間(三十日)は旧鉱業登録令第七十条の規定によつて登録の日から起算すべきものであるところ、本件抹消登録処分は昭和二十五年一月十日になされたのであるから、同年二月九日を以つて異議申立期間は満了したものである。」と主張する。本件採掘権の抹消登録処分のあつた当時施行されていた旧鉱業登録令第七十条は、登録に関する処分を不当とする者は処分のあつた日から三十日以内に商工大臣に異議を申し立てることができる旨を定めている。しかしながら、鉱業権の設定、変更、移転並びに消滅等について鉱業原簿になされたる登録そのものは、所轄行政庁の内部における行為であつて、登録権利者はその登録がなされたかどうか、また何時になされたものであるかを直ちに知り得ない関係にあるところから、特に旧鉱業登録令施行細則第三十二条は当該行政庁は登録を完了したときは、登録権利者に登録済通知書を交付すべき旨が規定されている。これらの点から考えると、登録処分に対する異議申立期間の起算点として旧鉱業登録令第七十条にいわゆる「処分のあつた日」というのは、登録を完了してその登録済通知書を登録権利者に交付した日を指すものと解するのが相当である。

よつて、これと異なる被控訴人の所論は採用しない。

(二)  東京通商産業局長が前述のように昭和二十五年一月十日本件採掘権の抹消登録処分をするとともに、同月十三日控訴人に宛てて、旧鉱業登録令施行細則第三十二条第二項の規定による登録済通知書を発送し、該通知書が同月二十日までに控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。この事実と成立に争いのない乙第四号証の一ないし四をあわせ考えると、本件採掘権の抹消登録申請書は控訴人の依頼によつて訴外原沢製薬工業株式会社が東京通商産業局鉱山部分室宛に郵送したのであつて、同封の書面には、「右の抹消登録申請書は瀬森利彰(控訴人)からその提出を依頼されたのであるから、今後必要な通知は一切瀬森氏(控訴人)へなされたい」という趣旨が記載されてあり、また同封の右申請書を入れた別の封筒の裏面には、差出人として控訴人の住所氏名が記載されていたこと、かような事情から東京通商産業局は抹消登録済通知書の宛名を控訴人名義にしたものであることが認められる。ところで、右通知書(乙第二号証と同じ形式の郵便はがき)の内容をなす裏面の記載事項中、登録権利者欄には登録権利者である瀬森理助の氏名が記載してあつたこと、登録権利者である瀬森理助とは登録済通知書の名宛人である控訴人とは親子であり当時控訴人の肩書住所に同居していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三号証によると、瀬森理助は長野県北安曇地方事務所から昭和二十四年度鉱区税の督促を受けた際、昭和二十五年三月二十六日附の郵便はがきで、同事務所に宛てて、本件採掘権は同年一月十日廃業による抹消登録すみであるから右鉱区税を免除されたい旨を申し出たことが認められる。

以上認定の各事情を総合して考えると、瀬森理助は右採掘権の抹消登録申請書を提出するについては自身でその手続をしないで、すべて控訴人にさせていたので、控訴人は原沢製薬工業株式会社に本件採掘権の抹消登録申請書を東京通商産業局に提出することを依頼し、同会社はその依頼に基いて前記のように同局宛にその手続をした結果、同局はその提出された右抹消登録申請書の封入してあつた封書が控訴人の差出名義になつていたことやまた右申請書を郵送してきた前記会社の書状の文面などにもひきずられた結果、誤つて、本件抹消登録済通知書における名宛人の記載を控訴人としたものであるが、右抹消登録済通知書の権利者欄に瀬森理助を登録権利者として表示してあることからみても、実際には右通知は登録権利者である瀬森理助に宛ててなされたものであることは容易にわかる状況にあつたものであつて、当時控訴人と同居していた瀬森理助としては特段の事情の認められない限り、右通知書が控訴人のもとに郵送されたときその内容を了知したものと認めるのが相当である。

かような状況のもとにおいては、かりに本件抹消登録済通知書の名宛人の表示に誤記があつたとしても、そのことのみによつて直ちに右通知を当然無効であると断定すべきではなく、本件抹消登録済通知書が控訴人(従つてまた瀬森理助)の住居に郵送されたときに、登録権利者たる瀬森理助に対する旧鉱業登録令施行細則第三十二条第二項所定の抹消登録済通知書が交付されて適法にその通知があつたものとみるのが相当である。控訴人は「登録権利者たる瀬森理助に対しては抹消登録済の通知はなく、従つて、同人はその事実を控訴人が主張する日までは、知らなかつたものである。控訴人宛の抹消登録済通知書は、控訴人が瀬森理助に代つて、これを受け取る権限をもつていなかつたものであるから、瀬森理助に対する通知としての効力はない。かりに右通知書の宛名を誤記したものとしても、その通知は被通知人の表示において錯誤があるから無効である。」と主張するけれども、前段において説明したように、本件登録済通知は、登録権利者たる瀬森理助に対する登録済通知として有効なものであるから、控訴人の右主張は採用できない。もつとも成立に争いのない甲第三号証によると、昭和二十六年六月四日東京通商産業局から、本件採掘権は昭和二十五年一月十日廃業による抹消登録がなされた旨を瀬森理助に回答したことが認められるけれども、前段鋭示の諸般の事情及び右甲第三号証の文面並びに弁論の全趣旨をあわせ考えると、右書面は、瀬森理助の照会に対する非公式の回答に過ぎないものであつて、もとより制規の抹消登録済通知ではないことが認められるから、右甲第三号証は前記の判定に支障をきたすものではない。

(三)  しからば、瀬森理助において、本件採掘権の抹消登録処分に不服があれば、旧鉱業登録令第七十条の規定に従つて、右抹消登録済通知書の交付のあつた昭和二十五年一月二十日から三十日以内に登録の申立をなすべきものであつたのである。しかるに、瀬森理助は右の申立期間を徒過して新鉱業法施行後である昭和二十六年六月二十九日に至つて始めて本件異議申立をしたのであるが、新鉱業法第百七十一条においても、異議の申立は登録に関する処分の通知を受けた日から三十日以内になすべきものと定められており、旧鉱業登録令施行細則第三十二条第二項によつてした登録済通知書の交付は、新鉱業登録令施行規則附則第三項により、同規則第四十条第一項の規定によつてしたものとみなされるのであるから、本件異議申立は新鉱業法の規定によつても、申立期間を徒過した不適法なものであるといわなければならない。しかも瀬森理助が正当の事由によつて、右の異議申立期間を守ることができなかつたことについては、何等主張立証がない。従つて同人のなした異議申立は法定期間を徒過したものであるから、被控訴人が本件異議申立を不適法として却下したのは正当である。

(四)  ところで瀬森理助が昭和二十六年十二月二十五日死亡し、控訴人がその主張のような事情から、右瀬森理助の権利義務を単独で相続承認したことは当事者間に争いがない。従つて以上説明したように、瀬森理助の異議申立が却下されたことが適法である以上、その相続人である控訴人の右却下決定取消の請求は理由がない。

三、次に本件採掘権の抹消登録処分の取消請求の適否について考える。

本件抹消登録処分に対する瀬森理助の異議申立は法定期間を徒過した不適法なものであつて、被控訴人のなした却下決定が相当であることは叙上のとおりであるから、本件抹消登録処分の取消を求める訴は結局、行政事件訴訟特例法第二条所定の裁決を適法に経ていないことになり、同法条の出訴要件を欠くものといわなければならない。従つて右の訴は不適法であるから、これを却下すべきものとする。

四、しからば、控訴人の本訴請求中、本件異議却下決定の取消を求める部分はこれを棄却し、本件採掘権の抹消登録処分の取消を求める部分はこれを却下すべきものである。従つてこれと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を通用し主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田潔夫 工藤慎吉 仁井田秀穂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!